死ぬ前に読んで

『私』が『貴方』へ伝えたい事です。死ぬ前にこれだけ読んでください。

 


今まで何をしましたか? 何が楽しかったですか? 何が辛かったですか?

思い出せるだけだけ思い出してみてください。

色んなことがありましたね。

辛い事、沢山ありましたね。それでもよく生きてきましたね。よく耐えましたね。本当に貴方は偉いです。凄いです。きっと人より何倍も何十倍も努力したでしょう。我慢したでしょう。でも、なかなかそれを見てくれる人はいなかったですね。貴方が無理して笑っていることに気がついてくれる人はなかなか現れませんでしたね。助けて欲しかったですね。でも、「助けて」の一言がなかなか言えない子でしたね。人に頼るのも苦手でしたね。人を時々信じられなくなりましたね。

それでも貴方は気付いているでしょう?努力を見てくれる人に会えたんじゃないですか? 無理して笑う貴方を気にかけてくれた人は居たんじゃないんですか? 助けてくれる人に会えたんじゃないですか? 信じられる人が出来たんじゃないですか? この人になら弱いところも見せられる、そんな人が出来たんじゃないですか? 今はもう信じられませんか? 誰にも、何も相談は出来ないですか? 貴方が逃げる先は本当にそこですか? 別の、もっといい逃げ道はありませんか? もっと温かい場所はありませんか?

貴方が今目指しているのは深い深い闇です。決めたんじゃないですか? 死ぬなら笑って死ぬ。貴方は今笑っていますか? 泣いているんじゃないですか? それとも、泣くことも出来なくなりましたか?

いい方法を知っています。貴方は人と話すことで自分自身を整理する人です。言葉にする事で自分を知れる人です。最近人と話しましたか?

誰か、誰でもいいんです。連絡先を漁って、誰か見つけるんです。話せる人を。貴方は賢いから絶対見つけることが出来る。貴方が選ぶ人なんだから間違いはないでしょう。そしたら一言、ただ言えばいいんです。

「助けて」って。

もし、そうやっても貴方に光が差し込まなかったらその時は今までお世話になった人達にお礼を言ってから区切りを付けてください。

今までお世話になった人は沢山いる。でも、同じように貴方が影響を与えた人も沢山いるんです。そのことを忘れないで。

 


貴方の最終的な結論を私は否定しないです。

貴方が選んだことなのだから正しいのでしょう。

絶対後悔はしないように。

 


最後にひとつだけ。

今まで楽しかったですか?

貴方が貴方の人生を楽しめたのなら幸いです。

願わくばこれからも貴方の道が続くことを祈って。

貴方が貴方にとって最善の選択をすることを信じています。

それでは。

生の重さと死の重さ

  いつも、いつも、地獄の毎日。朝早く起きてろくに朝食も食べずに会社へ行く準備をして会社へ向かう。昼までずっとパソコンに向き合い20分の休みでお昼を食べ、夜遅くまで働く。いつも乗る終電。人も空気も全てがくたびれている。家に帰るとご飯を食べる暇もなく風呂に入る。そして、いつも通りにあの部屋へ行き、縄を首にかける。しばらくその状態でいた後、深いため息をつき、縄を首からはずし洗面所へ向かう。そして鏡の自分を見た。減った体重、片手で掴める手首、酷いクマ。すべてがいつも通り。また今日も死ねなかった……。

 


  今日も仕事を終え、家に帰る。彼はアパートの階段をぼーっと何も考えずに登った。彼が部屋の前に目を向けると、ドアの前に小さな何かがいた。彼はしばらくそれを見て、動かない頭で状況を理解しようとしていると小さな何かはもぞもぞと動き大きな瞳が彼を見た。

  「あっ……」そう小さく声をもらした小さな少女は急いで立ち上がり、走り出そうとした。「あっ、待って!!」慌てて彼は逃げようとするその手を掴んだ。なぜ引き止めたかなんて分からなかった。全く関係の無い、言ってみれば赤の他人だ。それでも、彼よりずっと細い手首、泥だらけで所々血のついた服、裸足で泥だらけの足、ボサボサの髪、そして光のない目。彼よりもはるかに生きている時間は短いはずなのに、彼と同じくらい疲れきった少女を目の前にして、引き止める以外の選択は出来なかった。

  「家、入る?  行くところ無いんじゃないの?」そう彼が聞くと、少女は目を見開いた。いいの? そう聞いているように見えた。「いいよ、おいで」そう彼は言って、ドアを開けて先に中に入ると少女はおずおずと付いてきた。

  彼の後を歩いている少女は見た感じ6、7歳くらい。部屋に入り、キョロキョロとしている少女を横目に寝室へ行き、急いで部屋着に着替える。そして、まだ戸惑っている様子の少女に彼は声をかけた。「シャワー浴びる?」少女はコテンッと首をかしげた。もしかして、シャワーの意味が分からないのか……。そう思いながら彼は言った。「一緒に入ってあげるからおいで」そして少女を風呂場に連れていった。「大丈夫だから、服脱いで」そう彼が言うと少女は躊躇いながら服を脱いでいった。1枚、1枚と脱いで肌が見えていくにつれて彼の心は締め付けられた。至る所にある痣、血が固まった傷口。そして背中にはたくさんのタバコを押し付けられたような火傷の跡。あまりに痛々しいその身体を見て、彼は泣きそうになった。

  彼は少女の服を洗濯機にいれ、洗濯と乾燥のコースを設定してスタートボタンを押した。「よし、じゃあ入って」そう言って少女と風呂に入る。彼は少女をイスに座らせ、シャワーを出し温まったのを確認してから少女に声をかけた。「手、出して」おずおずと差し出される手に「お湯かけるね」と言ってからゆっくりお湯をかけた。ビクッと一瞬体を強ばらせた少女だが、すぐにそれはとけた。「大丈夫?  頭からお湯かけるから目、閉じてな」そう言って少女が目を閉じたのを確認してから頭からお湯をかけた。傷口にしみないか不安だったが大丈夫そうだった。彼はシャワーを止め、シャンプーを手に出す。「頭洗うからそのまま目、閉じててね」そう言って少女の頭を洗っていく。たくさんのコブがあるのを感じながら、優しく、優しく洗う。「またお湯かけるね」そう声をかけてから固く目を閉じてる少女の頭の泡をを流していく。「もう目開けて大丈夫だよ」そう声をかけると少女はソロリと目を開けた。 

  次は体。柔らかいタオルを濡らして、ボディーソープを出して泡立てる。優しく背中を洗っていると少女はほんの少しだけ顔を歪めた。彼は心の中でごめんね、と謝りながら背中を洗った。「あとは自分で出来る?」そう聞くと少女はコクンと頷いたので彼はタオルを渡して手を泡のついた洗って、「洗い終わったら呼んでね」と少女に声をかけて風呂を出た。さすがに小学生に欲情はしないが、それでも見るに堪えない傷だらけの体を洗うのはキツかった。少ししてガチャッとドアが開いて少女が顔を覗かせた。「終わった?」と聞くとコクンと頷くので風呂に入った。「お湯かけて泡流すぞ」そう言うと少女は慌てて目を閉じた。その姿を見て彼は少し笑いながら「目は閉じなくてもいいんだけどな」と言ってシャワーを体にかけると少女は怖々目を開けた。「よし、終わり」体の泡を流し終わり、シャワーを止めてから風呂場の外にあるバスタオルを取り少女の体を拭いた。

  頭をワシャワシャと拭く。「今服洗濯してるから、僕の服を着といて」コクンと頷く少女に彼は自分の服を着せた。少女に男物の下着を着せるのは申し訳ない気持ちになったが何も着ないよりはマシだろうと思った。「ごめんね、服明日には乾くから今日だけ我慢してね」そう言うと少女はコクンと頷いた。

  「髪乾かすからおいで」そう言って彼はドライヤーを取り少女を部屋の椅子に座らせる。「これはね、ドライヤーって言って髪を乾かす道具なんだ。あったかい風が出るよ。手、出してみて」そう言うと少女は素直に手を差し出してきた。ドライヤーのスイッチを入れるとゴーーッと大量の風が出てきた。少女は大きな音に驚いたようでビクリと体を震わせた彼は少女の手を取り、ドライヤーから出る風を少女の手に当てた。「こんな感じだよ。髪乾かして大丈夫?」そう聞くと少女は少し不安そうな顔をした後、コクンと頷いた。ドライヤーで少女の髪を乾かした。肩まである髪を乾かすのは慣れていなくて大変だった。頭にたくさんあるコブになるべく触らないようにして乾かした。「よし、終わり」そう言って彼はドライヤーを元の場所に戻した。「ご飯たべる?  と言ってもカップ麺しかないんだけど……」そう言うと少女は嬉しそうにコクンと頷いた。「ちょっと待っててね」そう言って彼はヤカンに水を入れて火にかける。「うどんでいい?」そう聞くと少女はまたコクンと頷いた。蓋を半分まで開けて中の火薬と粉末スープを取り出し両方容器に入れる。お湯が沸いたので、容器の線の所までお湯を注ぐ。箸と一応フォーク、それとキッチンタイマーを持って少女の所へ行く。キッチンタイマーを5分にセットして少女に渡す。「ピピピッってなったらこのボタン押して止めてね。僕はシャワー浴びてくるね」そう言って彼は風呂場へ行く。早く上がろう。そう思いながらいつもよりずっと早いスピードでシャワーをあびた。体を拭き、髪を拭き、服を着て、ドライヤーで髪を乾かす。

  部屋に行くとまだ少女はうどんを食べていた。「美味しいか?」そう聞くといきなり声をかけたせいか、ビクリと体を震わせてこちらを見てからコクンと頷いた。しばらくしてから少女は申し訳なさそうな顔をして彼にうどんを差し出してきた。まだ半分程残ってる。「もう食べないの?  おなかいっぱい?  僕が食べていい?」そう聞くと少女はコクンと頷いた。「じゃあ、いただきます」久しぶりに食べた夜ご飯。少し冷めたうどんは何故かとても美味しく感じた。

  彼はうどんを食べ終え容器を片付けた。その間ずっと少女は彼を見ていた。「歯、磨かなきゃだよね?  おいで」そう言って彼は少女を洗面所に連れていった。新しい歯ブラシを水で濡らしてから少女に渡す。「はい。ちょっと大きいかもしれないけど。歯、磨ける?」そう聞くと少女はコクンと頷いて歯を磨き始めた。拙い様子で歯を磨いている少女を横目に彼は手早く歯磨きを済ませ口をすすいだ。

  「歯ブラシ貸して。仕上げやってあげる」そう言って少女から歯ブラシを受け取ると、少女の歯を丁寧に磨いた。「はい、終わり。口すすぎな」そう言うと少女は口をすすいだ。

  「よし、寝ようか」そう彼が言うと、少女はコクンと頷いた。「おいで」そう言って彼は少女を寝室に連れていく。そして今までに2、3回しか使ったことがない客用の布団を出した。そして自分隣にひいた。「ごめんね。僕の隣で大丈夫?」そう彼が聞くと少女はコクンと頷いた。「ん、じゃあ布団入りな」そう言うと少女は布団に入った。「じゃあ電気消すよ。おやすみ」電気を消すと部屋は真っ暗になった。彼は暗くないか、怖くないか少し心配になりながら自分の布団に入った。少しして小さな寝息か彼の隣から聞こえてきた。それを聞き彼 安心したように彼はすぐに眠りについた。

 


  朝、彼はいつもより少し早い時間に目が覚めた。まだ隣で眠る少女に目を向けてから彼は仕事へ行く準備をする。顔を洗い、歯を磨き、着替え、少女の服が乾いているのを確認して、洗濯機から取り出す。彼は少女を起こすか迷ったが、起こさず彼が居ないことにパニックを起こす事を考えて少女の肩を優しく揺らしながら声をかけた。「おはよう」少女の目をゆっくり開き彼を確認した瞬間、大きな声でなきだした。

  「ぎゃぁーーー!!  ごめんなさい!!  やだ。やだ! なぐらないで!! いたくしないでー!!!」彼は驚いた様子ですぐに膝をついて少女を抱きしめた。そして、少女に優しく言った。

  「大丈夫だよ。大丈夫。僕は何もしない。怒らない、叩かない、蹴らない、痛い事はしない。大丈夫」そうゆっくり言い聞かせると少女はだんだんと落ち着いて泣き止んだ。

  「大丈夫?」そう少女と目を合わせながら彼が聞くと少女はコクンと頷いた。「ごめんね。朝とお昼ご飯、テーブルの上のパン食べてね。テレビはこのリモコンで付けて。いつでも見ていいよ。あと、服乾いたから着替えなね。隣の部屋には入らないようにね。なるべく早く帰ってくるけど、眠かったら寝ていいからね。じゃあ、行ってくるね」そう言った彼は少女の頭を撫でてから立ち上がった。そしてもう一度「行ってきます」と言ってから彼は家を出た。

  彼は会社へ向かう。いつも重苦しい雰囲気の電車が何故か少しだけ明るく見えた。彼は仕事中も少女のことを考えていた。少女のために早く帰らなければ、とも思っていた。けれどそう思えば思うほど、仕事は増えていった。

  そして定時。今日くらいは……。そう、彼は思い帰宅準備をしている上司の元へ行った。

  「すいません。今日の仕事を明日に回して帰宅してもいいですか?  今日は大事な用事がッ」言い終える前に彼の腹に激痛が走り、彼は地面にうずくまった。上司に蹴られたということを理解するまでにそこまで時間はかからなかった。

  「お前は何のために生きてると思ってるんだ?」冷たい声。

  「仕事をするためだ。会社のために生きてるんだ」鬼の声。

  「明日に回す?  そんな事をやってるとノルマ達成なんてできないぞ?  お前みたいな無能なやつをここ以外どこが雇ってくれる?」悪魔の声。あぁ、もう嫌だ。初めて彼は上司に反抗をした。今までずっと諦めて従ってきた上司に。

  「もう、ぼくは、いやだ」彼は絞り出すようにそう言うとまだ痛む腹を抑えながら、荷物を持って逃げ出した。「おいっ!!!」後ろから聞こえる上司の声は聞こえないふりをして彼は走った。

  久しぶりに乗る定時頃の電車。彼は考える。少女は何をしているだろう、寂しがってはいないか、何かに怯えてはいないか、早く帰らなければ。最寄り駅につき彼は電車を降り、夕暮れ空を見上げる。綺麗な空を見上げる彼は泣いていた。なんで僕はこんな世界に生きているんだろう、そうポツリと呟いた彼の言葉を聞く人はいなかった。彼は走り出した。アパートの階段を駆け上がり、部屋の鍵を開けて部屋に入った。玄関で靴を脱いでいると部屋の奥からパタパタと少女が走ってきた。少女は彼を見るとニコリと笑った。それを見た瞬間彼の何かは溢れ出した。彼はその場に崩れ落ちて泣き出した。

  玄関に膝をつき泣いている彼に少女はゆっくりと近づいた。そして両手を広げ、彼をぎゅっと抱きしめた。「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ。わたしが、いるよ。ずっといっしょにいるよ。だいじょうぶ」彼を抱きしめる少女は温かく、声は細く、優しかった。

  「僕は……もう、逃げたい。終わらせたい。死にたい……」彼はそう思わず言った。少女は彼を離し、彼の頭を撫でながら「じゃあ、いっしょにしぬ?」と言った。彼は少女はを見上げて驚いた様子で見上げて言った。「なんで、君が?」少女は言った。

  「まいにち、こわくて、いたくて、だからにげた。でも、だれもみてくれなくて、でもおにいちゃんはみてくれた。やさしくしてくれた。あったかかった。ずっといっしょにいたいとおもった。おにいちゃんといっしょじゃなきゃ、いきているのは、いやだ。だからおにいちゃんがしぬなら、わたしもしぬ」そう言う少女は笑っていた。

  「うん。ありがとう」そう、思わず彼は言っていた。「じゃあ今日は美味し物食べに行こうか。最後だし……。何が食べたい?」彼がそう聞くと少女は少し悩んでから「おすし……」と言った。「よし、じゃあ今日はお寿司食べに行こう!」そう彼が言うと少女は嬉しそうに笑った。

  そして、2人は最後を楽しんだ。お寿司を食べ、ケーキも食べ、歯を綺麗に磨き、温かいお風呂に入り髪も乾かした。

  「じゃあこれ飲んで」そう言って彼は睡眠薬を少女に渡した。「これ、どく?  のんだら、しぬ?」そう聞く少女に彼は答えた。

「うん、毒。すぐには死なないけどね、あまり苦しくないように」そう言うと「わかった ! のむ」少女は彼からコップ受け取り水と一緒に薬をコクリと飲んだ。

  「おにいちゃん。たのしかったよ。すごい、たのしかった」そう言って少女は楽しかった事を話し始めた。シャワーが温かかったこと、ドライヤーが気持ちよかったこと、うどんが美味しかったこと、布団がふかふかだったこと、初めて1人が寂しくなかったこと。だんだんと少女の目がトロンとしてきた。「ん、ねむいな……」そういう少女はとても眠そうだった。「うん、いいよ。寝な」そう彼は言った。

  「おきたら、あたらしいのがはじまってるかな?」少女は言った。「うん、きっと始まってる」彼は答えた。「また、おにいちゃんと、いっしょがいいな……」少女の言葉に彼は泣きそうだった。「ありが、とね……おにいちゃん。ちゃんと、ころしてね……、またね……おにいちゃん」そう言って少女は眠りに落ちた。

  彼は泣いていた。驚いてもいた。少女は気づいていたのだ。彼が渡した薬が毒では無いことに。おそらく、自分の事を彼が殺す、もしかしたら殺さないことに。自分を残し、彼が死んでしまう事態を見越して、彼に釘を刺したのだ。

  「逃げ道、なくなっちゃったな」そう、彼は呟いた。彼は迷っていた。未来ある少女を自分の死に巻き込む事に。けれど……。「そうだよな……、1人は寂しいよな……」そう言って、彼は少女を寝室に運んだ。そして少女を布団に寝かせ細い首に手をかけた。

   トクッ、トクッと小さな、でも力強い鼓動が彼の手に伝わる。彼は少女の首にかけた手に力を込めた。トクッ……、トクッ……。彼に伝わる鼓動はだんだん弱く、遅くなっていく。ポタポタと彼の目から涙が流れ落ちる。「ごめん、ごめんね」そう言い彼は手に力を込め続けた。そして、少女の鼓動は彼に伝わらなくなった。

  彼は少女を見た。、少女の顔は安らかで、苦しんだ様子はなかった。彼は1度少女の頭を撫でてから、ゆっくり立ち上がり、ふらふらと隣の部屋に行く。

  部屋の真ん中にぶら下がった縄。縄の下の椅子に上がり、首に縄をかける。恐怖が彼を襲う。だけど、彼は先にいる少女を思う。少女が待っている。だから行かなければ……そう彼は思った。

  「最後、楽しかったな」そう言って彼は椅子を蹴った。自分の足が椅子を掴まない遠くまで。この先に、きっと、あの子が……。

 

 

 

  ある家族がテレビを見ている。いつも通りのニュース番組。ニュースが絶えず流れている。

  「先日、〇〇市のアパートで7歳の少女と28歳男性が亡くなっているのが発見されました。少女には虐待の跡、そして首を絞められた跡があり、男性は首を吊って亡くなっていました。なお、男性の部屋には遺書が残されており……」

 


「はっ、無理心中だな。幼い子を巻き込んで最低な男だ」父親は言った。

  「いいか、自殺なんて弱いやつがやることだ。お前は強くなくちゃダメだ」

  少年は虚ろな目で答えた。「はい、お父さん」

 


  世の中で話題になった全く接点のない少女と男のニュースは数ヶ月後にはもう誰も覚えてはいなかった。

過去、今、未来

  唐突ではあるが、この世界は色々なところで繋がっていると思う。人と人との繋がりでは最もそれを感じると思う。

  1個上の先輩方が引退した。正直まだ実感がある訳では無い。だからそこまで泣かなかった。しかしきっと、1人減った教室。1人分減った聞こえてくる音。9人減った集合。色々なところで気づくだろう。どれほどあの先輩達の存在が大きかったか。

  色々な事を教わった。揉めたりもした。でも、楽しかったなと思う。そして少々の幹部業をする中で、大変だったんだな……とも思う。しっかりと支えられたかと問われればとてもイエスとは言えないと思う。出来なかったことはある。それでも後悔はしていない。引退することはずっと分かっていたことだ。引退は順番にくるものだ。常にではないにしろ、これが最後だと思いながら過ごしていた。

  部活とは、 引退し、その後で新入生が入り、1年を過ごし、引退する。それの繰り返しである。

  今先輩達がいた部活が過去に変わりつつある。そして私達が運営する今になろうとしている。そして、私達が引退し、後輩達が運営する未来が始まる。

  そうやって紡いでいくものだ。少しずつ少しずつ吹奏楽部の歴史を重ねていくのだ。

  引退とは1つの区切りだと私は考えている。吹部との縁が無くなるわけでは決してない。むしろ、「現役」とは別の繋がりが出来るのだろう。先輩達の吹部がなくなってしまったように感じるが、決してそうではない。ありきたりな表現ではあるが、先輩達の吹奏楽部は現役の私達の中にある。それは大切にしなければいけない。

   でも、それよりももっと大切にしなければいけないのは自分にとって吹部だ。

  自分が楽しい!やりたい!そんな思いを集めていけばきっといい部活になる。そう私は思っている。

  先輩とはその参考資料のようなものだ。これは良かった!私の代の参考にしよう。これは直さないとなー。そんなことを思いながら日々を過ごしていた。少しでも多く吸収出来るように。

   たった1年。されど1年。先輩は多く上に立っている。たったそれだけで偉大なものだと思う。多くを見て、多くを学び、多くを考えた1年だった。

  先輩から見れば生意気な後輩だったと思う。

  だけど、本当に尊敬していた。

  多くを吸収出来たと思う。

 

  次は私達が繋げて行く番だ。

 

  私達が過去になる前にいかに未来に残すか。

  いいものを残していく。絶対に。

  過去、現在、未来の順で言われることが多いが、今の「未来」が「現在」になりやがて「過去」になるのだ。物事は全て未来から来てら今にたどり着き、やがて過去になる。

  未来の私達が笑って悔いなく引退できるように、未来の後輩が引退を悲しがってくれるように、今私達は先輩達から色々なものを引き継ぎ進んでいく。

  これはゴールのないリレーだ。

  私達が進む限り、何周でもできる。

  止まってもいい。迷ってもいい。それを次に繋げさえすれば。迷いながら書いた地図も、止まりながら書いた地図も、全力で走りながら書いた地図も同じ地図であることに変わりはないのだから。

  それをもとに次の走者達は走るのだ。           奏でるのだ。

  過去から今へ。そして未来へ繋がれるバトン。皆で聖火の如く繋いでいきたい。

辛い時に

  取り戻せないもの。楽しかった時、悲しかった時、過ぎ去った過去、今この一瞬。
  取り戻せないものはこの世の中に沢山ある。取り戻したいものはいっぱいある。しかし、そのほとんどが取り戻せない。思い出として残るものはあるが、あの時、あの一瞬の気持ちはその瞬間の自分だけのものだ。
  やりなおし、繰り返しのきくものは沢山ある。
  だけど、それが出来ないものも多い。
きっと皆が大切に思っていることは、繰り返しなんて出来ないだろう。出来ないからこそ大切なのだ。
  大切なものは失う前に気付こう。大切だと知っているうちに楽しもう。失ってから大切だと気が付く事ほど切ないものは無い。今この一瞬は、今の貴方だけのもの。過去の貴方も、未来の貴方も手が出せないものだから。
  辛いことも同じ。その辛いことがそのまんま繰り返される事は無い。きっと少しづつ変わっている。大丈夫。道が続いている限り、繰り返しなどない。上り坂、下り坂、曲がり道、色んな道を通って終着点まで行く。その道を歩いている時には綺麗なものも、汚いものもあるはずだ。人生という道を楽しむにはいかに綺麗なものを見るか。汚いものから目をそらさず、乗り越えていくか。辛い時には周りを見て。貴方の周りには同じようにもがいている人、手を差し伸べている人が必ずいる。崖から落ちたり、道から外れそうになったりした時には少しだけ上を見て。届く距離に差し出された手や、限りのない青空が広がっているはず。急がなくていい。焦らなくていい。自分の道は自分で決めて。レールの上を走るだけじゃつまらない。貴方が決めた道に間違いはないし、失敗してもきっと誰かが助けてくれる。
  逃げたい時は逃げていい。それは恥じゃない。逃げて逃げて、準備が整ったら立ち向かえばいい。
  我慢のしすぎは良くない。溜め込まないで。少しづつ想いを吐き出そう。聞いてくれる人を探そう。そして、その人の話も聞いてあげて。
  大丈夫。永遠の闇なんてない。明けない夜はない。たとえ、今暗くて悲しくてもきっと楽しい時が来る。暗くて悲しくても、誰かといれば怖くない、寂しくない。信用できる仲間を見つけて、大切にして。
  大丈夫。貴方の歩いてる道は間違っていない。だから辛くても諦めないで。大丈夫。見てる人はいる。最後まで歩こう。調子が良ければ走ってもいい。疲れたら休憩してもいい。
  貴方は今まで沢山の汚いものを見たかもしれない。自分自身も時々汚く感じたかもしれない。だけどきっと周りには沢山仲間がいる。大丈夫。貴方はまだ歩ける、進める。最後まで進んで、その後で、後ろを振り返っていい人生だった、そう笑えるように進んでいこう。

 

猟奇事件が起こる原因

ふと、考えた自分の解釈がわりと良かったので記しておこうと思う。

 

猟奇事件が起こる原因

猟奇的殺人。それは「普通」の殺人と違いよりも重いと考えられる。それは、私怨などによるいわゆる「人間的」な殺人とは違い「普通」の人には理解ができないからだろう。

それでは何故猟奇事件が起こるのだろうか。

私は「普通」に縛られなかった結果だと考える。私達は日々「普通」に縛られて生きている。

赤信号は渡らない—なぜ?—それが普通だから。
お酒は二十歳になるまで飲まない—なぜ?—それが普通だから。
人は殺さない—なぜ?—それが普通だから。

それらの「普通」はいわば無難な道だ。「普通の鎖」は私達を縛りつつも私達を守っている。しかし、その鎖が間違っていたら。

もし、周りが皆赤信号で渡っていたら。
もし、周りが皆お酒を二十歳になる前から飲んでいたら。
もし、周りが皆人を殺していたら。

鎖を作っているのは「周りの皆」だ。一体何人から「皆」なのかは時と場合によって異なる。

猟奇的殺人者はその「普通の鎖」が乱れた、或いは無くなったのだろう。大抵の猟奇的殺人者には幼少期何かしらの周りの環境問題がある。
それはいじめであったり家庭的な何かではあるが、何かしらある事に変わりはない。
周囲の環境の問題は「普通の鎖」を蝕んでいく。

周りの環境の問題は、私達を縛り、守る「普通の鎖」を壊していく。

最初は単純な「死体」への興味。それすらも「普通」の人なら持たないだろう。持ったとしても“自分で死体を生み出したい欲求”は「普通の鎖」が縛ってくれる。
しかし、その鎖がない人間ならその欲求に飛びつくだろう。

これが猟奇事件が起こる原因だと考える。